空の色/服部 剛
と
青空をめがけて羽ばたいていった
あの蝉(せみ)の不思議をみつめていた
澄んだ瞳を大きく開いて
日々の忙(せわ)しさの中で
いつから私はあの頃の少年を置いてきたのだろう
時は流れ
大人になった私は
いつしかモノクロームの眼鏡(めがね)越しに
世界を見つめ
交差点に鳴り響く足音の渦の中で
独り立っている
見覚えのある切れ目の女が独り
麗しい肌色のふこやかな頬が
立ち止まる私の傍らを通り過ぎ
人波の中に後ろ姿は消えた
風に吹かれた髪の薫りだけを残して
一人の女(ひと)を想い続けた日々の名残(なごり)は
遠い背後の霞(かすみ)に消え・・・
( 幻の女(ひと)よ、今、君の空は何色だい・・・?
( 今朝の天気予報は晴れだったけど
( 大人になってから仰いだ僕の空は
( もう長いこと・・・青さを忘れてしまったようだ
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