空の色/服部 剛
鎌倉に住む私は
古びた寺の庭園の水の滴で岩を掘る
水琴窟(すいきんくつ)の音(ね)を忘れ
日々グレーのスーツに身をまとい
コンクリートの街並みに染まる石像群の一人として
朝の川の流れのままに歩いている
幼い頃
夏休みに遊びに行った今は亡き祖母が
改札で待っていてくれた茶褐色の着物を着た猫背のまなざし
深く刻んだ皺(しわ)から苦労の痕(あと)が滲(にじ)む顔
移動中の電車の中で力なく首を垂(た)れ
忘れた頃に甦(よみがえ)る遠い夢の情景
あの頃私は田舎の雄大な山の緑の中にいた
木の枝に抜け殻を残し
一週間の命を生きようと
[次のページ]
戻る 編 削 Point(10)