宵闇の奥に/馬場 こういち
 
餓え痩せ細った狼
露わに浮き出た助骨
雪上に臥せる毛並みは色褪せ
微かに白銀の息が
剥き出した牙の隙間から
宵闇へ薄れゆく
呼吸の残像

朽ちかけた嗅覚の閾
見開いた眼の鋭角
傍らに止まる異体の肉を捉え
俄かに鉛の爪先が
降り積もった雪を払いながら
部外者に向ける
縄張りの本能

踏み込んだ
此れを敵と見出すか
あるいは
餌食と悦ぶか

張り詰めた真直ぐな脚
殺気に満ちた筋肉
纏う寒風の流動も音も消え
静かに金色の眼光が
闇の幽かな深みから
獲物を見据える
猟奇の形相


突如に荒ぶ夜吹雪が
血の煌めきを毟り取って
朦朧の骨格は
冷床に崩れ落ち
黒い土の塊と為った


宵闇の奥に見た暗影は
餓えた狼の幻影か
剥き出しになった土の塊

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