花を育てる 〜一年の計〜/服部 剛
げに赤い花びらを咲かせていた
〜
去年のある仕事帰りの夜
職場の人間関係に少し悩んでいた僕は
修道院の老いた尼さんを訪ねると
「水の結晶」という本を開いて
二枚の写真を見せてくれた
写真に添えられた文を読むと
「 テーブルに水を入れたコップを置き
ショパンが愛する人に捧げたピアノ曲を聞かせると
水の結晶は寄り添い美しく輝き
人と人が争い血を流し倒れている地獄絵を
近くに立てかけると
光の失せた結晶は濁(にご)り分裂する 」
と書かれていた
本を閉じて老いた尼さんの顔を見上げると
黙って静かに微笑んだ
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