花を育てる 〜一年の計〜/服部 剛
 
もう何年も前
遠い北国に嫁(とつ)いだ姉が
新しい暮らしに疲れ果(は)て
実家に帰っていた頃

日の射す窓辺に置かれた
白い植木鉢から緑の芽を出し
やがて赤い花を咲かせたシクラメンの花

日々誰にも語れぬ辛い想いを囁(ささや)くように
じょうろを手にした姉は水をやっていた

嫁ぎ先へ戻り
冬を越え 季節は巡り 梅雨(つゆ)となり
春には枯れるはずのシクラメン

悲しみを頬に浮かべながら
ほのかな希望を探すように
自らに水をそそいでいた姉が
今日の日も遠い空の下で生きていることを忘れぬように

窓辺で静かな雨音を聞きながら
けなげに
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