映画館の恋人/蒸発王
 

祖母の秘密の恋人だった


そして

秘密は
祖母が死んでも守られのだ





閉館が決まった映画館は静かだった

赤絨毯もシャンデリアも
ただエスカレーターだけが
人も居ないのに
ごんごんと動いていた


前から七列目に
一人で座る


投影機が回って
古い映画が踊り出した





ふいに
手を握られた



ああ


『彼』だ




まだここに居たのだ



握り返す指
それだけに
心を集めた



映画が終わると
彼はもやもやとした影のまま
私をエスカレーターまで送り


手を振った



私が見えなくなるまで
ずっと
彼は
手を振っていた



私は
母よりも祖母に似ている
と評判の笑顔で


涙を
こらえた




『映画館の恋人』
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