碧い涙/服部 剛
十字架にはりつけられ
頭(こうべ)を垂(た)れる人に
今迄私はいくつの石を投げてきたことだろう
尖(とが)った石の言葉で誰かを傷つけた日も
心無い恋の海に溺れた夜も
見てみぬふりをする意識の何処(どこ)かで
その人は 頭を垂れて じっと私を 待っていた
私が投げつける
いくつもの濁(にご)った罪色に染まる尖った石が
うっすらと空色の浮かぶ薄い胸に吸い込まれてゆく
私は愛に飢え渇いて這う痩せた野良犬
荒涼とした草木一つ生えることのない無人の大地の彼方に
空だけが美しく夕暮れてゆき・・・
夜空にたった一つの確かな星が瞬くのを待っている
もう会うことも無い誰かの心の中で
力無く両腕を広げたその人の沈黙は
あてもなくうなだれて歩く私の名を呼んでいた
旅の途上で眠る夢の中で
辿り着いた十字架の足元から
頭を垂れた人を見上げる
長い間 閉じていた瞳 ゆっくり 開く
震える腕を伸ばして開いた手のひらに落ちてくる
一滴(ひとしずく)の碧(あお)い涙
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