「空白乗車券」/服部 剛
仕事帰りの人々がため息まじりにぞろぞろと
スクランブル交差点をわたり渋谷駅へと吸い込まれてゆく
18時20分
パチンコ玉なった僕は
ジグザグに人と人の間を縫(ぬ)ってゆく
安いぺらぺらのジャンパーを着た
ハーフらしき茶色い瞳の小さい男の子は
鼻水のたれる穴をふさいだティッシュをつめこんだまま
シャドウボクシングを繰り返し
避(よ)けてよたつく僕の腰をかすめていった
後ろから姉らしきブロンド髪の女の子が
元気ハツラツ「オロナミンC」のビンを片手に小走りで
雑踏に消えゆく弟の背中を追いかけていった
駅の入口に吸い込まれ落ちてゆく
無数のパチン
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)