若き日々への憧憬/服部 剛
ガラス張りの大学に入り受付をすませると
演劇スタッフの君はにっこりと僕を迎えてくれた
小劇場に入ると
舞台上に寄り添って並ぶ幾本もの木の幹の間で
若い役者達はふざけあい談笑しながら開演の時刻を待っていた
2週間前のホームページで
報われぬ恋の切なさに眠れぬ夜を呟(つぶや)いていた君に
「若い頃の辛い出来事も
いつか大人になって懐(なつ)かしく振り返る日がきっと来るよ。」
とメールで伝えたけれど
本当は
教えられるのは
大人になるにつれて
「若き日の理想」を置き去りに遠ざかってゆく
僕のほうだ
一つの物語を織り成そうと舞台に集う若い役者達
眠れない夜を越えて誰かを愛そうとみつめる君の大きい瞳
開演のベルが鳴り
小劇場の最上列に独り腰かけて舞台を見渡す僕は
両手の親指と人差し指を組み合わせた額縁の中に舞台を重ね
若い役者達が肩を並べる「青春の絵」を眺めていた
懐かしさに少し目を細めて
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