小春日和に/服部 剛
 
時速80kmの車窓
次から次へと景色は流れる

ホームの階段をひたむきに駆け上がる
パリッ!とスーツの新人サラリーマン
けっつまずき 宙に浮く 縮(ちぢ)んだ4本の手足
車窓から消えてゆく

梅の花咲き満ちる公園で一心に白球を追う野球少年
伸ばしたグローブの先に届かなかった白球は地にはずむ
もつれる足 ころりと回転する 泥だらけのユニフォーム
車窓から消えてゆく

電車が重い地響きで鉄橋を渡ると
車窓には穏かな流れの多摩川
青空高く にっこり昇る太陽は
遠い場所から
吊り革につかまる僕の顔を照らし
思わずほくそ笑む

世界のあちらこちらに「もう一人の僕」がいる気がして 




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