サンクス、小虫/jei
ぐしょ濡れ靴に、ひそむ小虫が
俺の靴ひもを何度もほどく
そのたびに結び直すのは
迷いか
恐れか
Uターンして帰宅するチャンスを
何度も与えてくれる
サンクス、小虫
だけど余計なお世話だ
さすがにまだ生きていたいから
この命が
本当に俺の命であるか
さすがにまだ確認できないから
行く
いくつかの地図記号を踏みつぶし
けぶる街の
雨
斜めに体を透過
放射線
スマイル不要の
瞬間フォトジェニック
指定のポージングの
内臓ヌード
呼ばれて扉を押す
診察室は白々と発光
無数の患者の一人にすぎない
無数の俺の命は小虫
ちっぽけに投げ出され
俺のレントゲンを見つめる医師の横顔
その頬の無数の毛穴
そこを出入りする無数の小虫は
かなり心配顔だ
目が合ってしまう
サンクス、小虫
俺はきっと大丈夫、大丈夫
戻る 編 削 Point(0)