消しゴム/仮名
弟に消しゴムを借りたら
それは人の形をしていた
手も足も頭もあって
だけれど体は白いゴムなのだった
消しゴムは今にも動き出しそうなほど
生き生きとした表情をしていたが
その顔は弟が彫ったものだった
頭のところには
「ハッピーバースデー」
とボールペンで書かれてあった
いつかの今日
はたして誰が生まれたのか
僕は知らない
消しゴムは今にも
いえーい
とか言ってクラッカーを鳴らしそうな気がした
僕はそれを紙にこすりつけた
この消しゴムが誰を祝っていたのか
僕は知らない
ボールペンの字はカスになって消えた
消しゴムの表情も削れて平らになっていた
確か笑っていたと思う
机の上には消しカスと真っ白な紙が残った
もうなにを間違ったのか忘れてしまった
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