「鏡の中の紅い花」/服部 剛
 
世の風に流され
秘め事を懐(ふところ)に隠し
灰色のコートを羽織った背中を丸めた男の後姿が独り

世の風に抗(あらが)い
闇の向こうに見える光へと澄んだ瞳を向け
空色のシャツを着た背中を伸ばした青年の後姿が独り

一つの鏡の中に浮かぶ
二つの孤独な魂
あても無く旋回する衛星

「昨日」と「明日」を繋いで
弧を描く道の上で歩み続ける
灰色の男と空色の青年は
「今日」お互いの姿を道の向こうに見るだろう

一本の道の上で歩み寄るふたりの間には
一輪の紅い花が少し淫らに咲いており
風に漂う香りに耐えかねて
向き合う男と青年は同時にしゃがみ
組み合わせた
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