やわらかな思い出/炭本 樹宏
 
 それは厳しい冬が終わり
 春という文字が輝きを放ち
 草も木も鳥も犬も
 厳格な父も口うるさい母も
 街行く人がすべて
 やわらかい日差しの恵みを受けて
 天国に近い場所でのことだった

 傷つき未来と離れた片隅で
 佇んでいた二人が出会い
 お互いの温もりを求め合い
 春の風に誘われて
 季節の魔法にかけられて
 自然に惹かれ合った

 眩しい公園に導かれ
 裸の心がぶつかりあい
 全宇宙が僕たちを祝福して
 甘い果実の香りが立ち込め
 子供のようにはしゃぎあい
 二人の瞳に恋の花が咲いた

 緑と水色の空と僕たちの笑顔は
 この世界で太陽のようにかがやき
 あまずっぱいくちづけに
 身体はとろけ
 心は空の彼方までとけこんで
 幸せの春一番が僕たちの
 ここを酔わせ
 この世に天国をもたらした

 もう遠い昔の話

 やわらかな思い出



 
 
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