ワイパーのある生活/たもつ
ワイパーを身体につけたんだよ
ネジでさ、おへその穴に固定してね
勤続十五周年だもの
いろいろな人が去っていったもの
自分へのせめてものご褒美だもの
憧れていたんだ、ワイパーのある生活に
誰かが忘れていった骨みたいのが
カッチッカッチって
勤勉に規則正しく動くだろう
滑稽だよ、素敵だよ
でも勘違いしちゃいけない
憧れていたのはワイパーのある生活で
ワイパーそのものじゃないんだから
たしかにワイパーをつけたところで
雨を防ぐことはできやしない
眼鏡だって雨にさらされるから
景色はすぐに滲んでしまう
交差点
信号が赤から青になって
色とりどりに傘の波が動き出して
ぼやけた輪郭はつながって
自分だけ秒単位で遮断される
それでも時々、雲ひとつない夜空を見上げていると
ワイパーがプロペラみたいにブルンブルン回転し始めて
あの星とあの星の間を飛んでいけるんじゃないかって
スイッチをいれてみたりするんだよ
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