冬物語/落合朱美
 
蝋燭の
仄かに灯した明かりだけで
読みたい物語がある
閉ざされた雪山の麓の
貧しい村の物語
痩せた土壌では穀物も育たず
日照りの夏と実らぬ秋を経て
魂の芯まで凍える冬を迎える
隙間風が土間の縁に吹き溜りを作り
僅かな温みの囲炉裏ばたで
母は我が身の体温だけで乳飲み児を温め
子供たちは肩を寄せ合い
父は藁を編んでいる
やがて祖母が語り始める
この山の奥深い森の冬の話を
 山にはナァ
 山嵐という乱暴者の男と
 雪女という冷てぇ手のオナゴがいでナァ
 冬中獲物どご探して走り回るんだと
 吹雪で道さ迷った人間や
 寒さで動げねくなった動
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