シリウス/蒸発王
と水気を湛えた
長い黒髪を吹きながら
鼻歌で歌っていた
編物に失敗して
いびつな形の
小さい靴下をほどきながら
歌っていた
陣痛に顔を歪めて
救急車がくるのを待っていた時も
歌っていた
息子のための
母親の子守唄
―**――*―* * *―−*−−―*
着信メロディはしばらく鳴って
ふつ と
止まった
いつのまにか
私は泣いていて
暗闇だから
息子に気取られなかったが
止まらなかった
オレあの歌きいたことあったかなぁ と
首をかしげる息子の頭をくしゃりと撫でて
2人で
シリウスを見上げた
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