「井戸の底」/服部 剛
つまずいてばかりの日々にうつむいて
ちぢんだ心を潤(うるお)す
水の湧き出る場所を探し歩いた
立ち止まり シャベルで穴を掘り続け
気がつくと
静まり返った暗い穴底にひとり
小さく丸い青空を見上げては
地上から誰かがのぞいてくれるのをじっと待っていた
時々遥か頭上を通過してゆく誰かの足裏
叫べども 声は届かず井戸の中に虚しく響く
もし
誰かが地上の穴の傍らにしゃがんで
井戸の底にいる僕を見つけてくれたなら
小さく丸い空に見える太陽を反射して
光る涙
井戸の底から
地上の人へ
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