茨の冠/服部 剛
老人ホームの廊下にぽつんと置かれた
老婆の横たわるリクライニング
動かない首をギブスで固定され
閉じた瞳を顰(しか)め
入浴の順番を待つ
「今日(こんにち)は」
身をかがめて声をかけると
「首が痛い・・・助けてください・・・」
か細い声は繰り返される
黙って細い肩に置いた手のひらを
浴衣越(ゆかたご)しに老婆の体温(ぬくもり)が温める
「苦しい・・・」
閉じた瞳を顰めた老婆の表情に
遥かな昔
茨の冠を被(かぶ)り 十字架にかけられた人の顔が うっすらと浮かぶ
そっと背を向けて去り 数分後に戻ると
老婆の姿が消えたリクライニングに残された
透明の茨の冠
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