覗き穴、にて/A道化
 





雨戸を開けたら
夜の一過性の麻酔が
今は静かに窓に張り付き
単なる水気となっていた
その硝子面を、つつ、と指で擦り取り
そこを覗けば、山茶花の
一塊の色彩の首だ


香る前に凍りついてしまった香りを
どうせ不要だった、と言い切ることで
ますます純度を上げてゆく山茶花が
山茶花として
紅い発色を確立してゆくにつれ
朝は、ほら
残酷な二極化を遂げてゆく


硝子に預けた私の首は
硝子に滞り
硝子は再び
その私で不明瞭になり


だから、その硝子面を
この生ぬるい不明瞭を
つつ、つつ、と指で擦り取り
こんなにも見つめるのだから、などと念じ
山茶花との疎通をひたすら図れば
嗚呼、今度はそのひたすらが
はらはら、はらはらと切り捨てられてゆく



2005.11.4.
戻る   Point(14)