クロール/松本 涼
その街はいつでも夜だから
君はスマートなクロールで
柔らかく早くどこまでも泳げる
絡まるような人の波を掻き分けながら
真上の月の明かりよりも
通りのずっと向こうのブロック塀から漏れる
おぼろげな明かりを信じて
途中季節外れの浴衣の猫が
足元にじゃれついたとしても
君は無邪気に笑いながら
その頭を撫でて家までの道のりを
囁くように教えてあげるんだろう
そうしてその街の
夜の深くに潜った君のクロールは
誰かが誰かのままで在る場所へ
今夜も急いでいるんだ
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