仕様の無い癖/錯春
 
唇の皮を剥く癖が幾つ夜を重ねても直らない

横に居る誰かの顔色を窺って
「飽き飽きしてる」
と言われるのを怖がっている
こちらもそう言ってしまいそうだから
窺っている

ほの白い布団
どこかで見たような顔をした自分が眠ったふりをしている
明け方になれど隣りに居る誰かの顔を思い出せず
女だったような男だったような動物だったような果物だったような魚だったような鏡だったような刃物だったような自分だったような空洞だったような傷だったようなその傷から流れる何かだったようなカサブタだったような娘だったような息子だったような双子だったような忘れてしまった人のような忘れられない人のような思い
[次のページ]
戻る   Point(2)