鏡の中に映る人 〜誕生日に想う〜/服部 剛
 
ぐるみを着て、朝日が昇るごとに目覚めて、
おぼつかぬ足どりで日常の舞台に踏み込んで、
面白おかしく、時に切なく、
この人生という物語を演じている

( きっと誰もが「自分」というぬいぐるみを着て
( 時に脱ごうともがきながら
( 時に優しく撫でてやりながら 
( 繰り返される日々の中

独りの部屋で 

鏡に映る「自分」という 

不思議を 

みつめている


    *


「 じりりりりりりりん! 」

僕より年上の黒電話が鳴り
親父の車の助手席に乗って
携帯電話を手にした61歳の母ちゃんが

「 今日の夕食は年に1回のステーキよ。
  たまには家族そろって
  焼きたてのお肉を食べてちょうだい。 」

受話器を置いたら
頭の中に今晩のステーキが浮かび
おなかが ぐぅ と鳴った 

冷蔵庫の中では
昨日職場のおばちゃんが
誕生日プレゼントにくれたワインが紙に包まれながら
コルク栓を抜かれる 夕食の時間を待っている 







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