珈琲屋のはなし/たちばなまこと
洋裁系専門学校に入学し札幌に住み始めて1年、大学生の友人に行きつけの珈琲屋があるから一緒に行こうと誘われた。思えばあれが珈琲屋マジックにかかった記念すべき日だ。
授業を早く抜け出しては珈琲、バイト前には珈琲、買い物の合間には珈琲、散歩がてらに遠出しては珈琲、仕事の飲み会の二次会組から逃げては珈琲。
店長のおすすめフレンチブレンドが好きだった。最も、珈琲になれていなかった頃はマイルドブレンドを飲んでいた。飲みやすくって。長いこと通うと、ハンドピックの豆で私ひとりの為だけにおとしてくれるようになった。
ネルとポットを手に持ってお湯を点滴する。じわじわと豆が生き物のようにふくらむ。命を吹き
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