バラナシ/ワタナbシンゴ
窓枠の向こう側に海溝が寝転がっている
紺碧が逆立ちした午後
ぼくは物語と煙草を携えて
ゆらり生える象鼻の先に
時をぶらさげた
路地裏の化石にチャイを注ぎ
ふるさとの唄からも遠く
インド洋の水が泣く辺境をたどり
老人はここまで歩いてきた
「陽気なまでの今日の天気だ」
誰にでも 魂を解き放つ火が
さんざめく街並みを足元から焼いている
千年のにんげん
千年の死者たち
出会うところに咲くという アカバナの記憶の群生
ガンジス川の彼岸では
風下に立ち 凧を揚げる子どもたち
不浄も清浄も子知らず
風に巻かれて
みんないっしょにそらになれ
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