秋の呼び声/服部 剛
 
い散る葉をすくい
(皆の笑い声の頭上に飛ぶ
(赤とんぼ等も喜びに踊るだろう 

大切な誰かに
秘密の想いを綴(つづ)った手紙を届けるのは
きっと これから
皆が集い笑い声があふれるあたりに
秋の陽の射すあの木陰まで
重いベンチを独り運ぶのに似ている

時に気まぐれな激しい雨から逃げようと
重いベンチをほったらかしたまま
家の廂(ひさし)の下
雨宿りしていた僕

アスファルトに跳(は)ねる
無数の雨粒の音(ね)に耳を澄ますと
鼓膜の奥に
ショパンの「雨だれ」が流れ始めた

放り出されたまま
雨に濡れて光を滲(にじ)ませた
寂しげなベンチと
ベンチが運ばれるのを待つ
独りの木を見つめていると
ぼんやりと霧の煙り始めた幻の情景の中
穏かな秋の陽射しの下に
輪をつくる今は亡きお年寄りの懐かしい面々が
幸せそうな笑顔を浮かべ

「 おいで、おいで、こっちにおいで 」

廂の下に雨宿りして独り雨上がりを待つ僕に
あの木陰から唄いかける 






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