弥生・三月・夢見月 ー北鎌倉・東慶寺にてー /服部 剛
石の階段を真(ま)っ直(す)ぐ上ると
古(いにしえ)の文人達が林に眠る東慶寺
境内の門の向こうには
紅白の梅園が広がり
石畳の正面奥に
惑いなき御顔で座る大仏
弥生・三月・夢見月
暗闇に咲く花弁を抜けて
林に入ると
太槍を晴天に突き刺す
杉木立が青年を見下ろす
無言の木々に
手を合わす
白い煙の情念は
幹の間を昇りゆく
夢を見据える
青年のこころは一本の杉の如く
目の前を覆う霧を
突き抜ける、明日へ
草の茂みに独り立つ
にこやかな地蔵と目を合わせた後
林に背を向けて歩き出す
夜の帳が下
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)