飛光/ワタナbシンゴ
大な山々が降っている、そのなかを足跡で
すらない道を標高5000メートルまで昇っていく。五
体投地はここではまさに地球に生まれついてしまっ
た間隙。そんな捨て身の激しさをラサまであと2000
キロ繰り返すラマ僧。ここに陽暮れていく慕情は周
囲を出し入れするだけだ。チベットに海はない。鳥
だけが魂を運び、大イヌワシの影が夜に傘をかぶせ
ていた。チャムドの街は偶然にも年に一度の燈籠祭。
街の灯りはすべてろうそくの灯とおかれ、灯は揺ら
ぐ。揺らぐ夜にしし座の流れ星たちが、ひとが決し
て渡ることのできない河を架けていた。
赤い最果て
飛光よ、飛光
一度きりの夕暮れが
あなたを劈いた暴力に
わたしは産まれてきたのです
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