幻の花/服部 剛
 
頼りなげな細い女が
曲がりゆく細い道を
秋風に揺れながら歩いている
茶色く褪(あ)せた麦藁帽子(むぎわらぼうし)に顔を隠して

道の上に時は無く
女に年齢というものは無く
長袖のワンピースの袖口から
一つの意思を持って生えた白い手は
一握りの夢を入れた小さい鞄の取っ手を握りしめ

歩いてゆく

空に身を隠した誰かの呼び声に
耳を澄ましながら 

時の無い道の向こうに霞(かす)んでゆく女の細い背中

いつか

道の果てのましろい空に微かに揺れて浮かぶ

一輪の淡い桃色のコスモス 







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