それでも 生きているのだ/窪ワタル
心臓を 下さい
何処かに置き忘れたのです
シナプスを飛ばして 過去の駅
遺失物預かりの四角い顔は
どうして揺れることがないのでしょう
同情して下さい なんて
云えないのだけれど
からっぼの胸骨には
脳味噌がすっぽり収まるので
代用には十分ですよ
と 云うのですよ 医者のヤツ
試しに頭蓋骨を砕いてみましょうか
ですって
ただし暫く真っ直ぐ歩けませんよ
ですって
ただでさえナケナシのプライドが
揺らぐじゃないのさ
血が流れていないのか
今朝からひどく寒いのです
まだ秋だというのに
街は冷蔵庫の底のようで
制服を着たカップルが
キス なんかしてる
マッチよりは温かそう
唇をなでると
手触りは骨に似ていて
輪郭だけが残っているのでした
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