ボンレスハム/あおば
 

いつもおそばにおります
柿木の傍らで言われた
たねはそっと埋めておきました
囁くように告げられた

沢庵のおかずで夕食を摂るときは
気が散らない目玉汁を
かき混ぜてはいけません
言い続けられて育った妹が呟く
遠くの林にハムが一切れ落ちている
早く取りに行かなくては母さんに叱られる
栄養失調の妹を背負って夜道を急ぐ
林に着いたときは薄いヒカリがさして
乏しい夜の栄養分を翳らせた

あの辺が怪しいからつれてって
妹の声に
ほっこりした土を目で均す
滑らかになったその上で目覚めた
餓えたものたちは互いに牙を立てあって
少ない獲物を独り占めしようとするのだ

穴の空いたバケツを拾い
ガンガンと打ち鳴らし
禿鷹どもを追い払い
獄死した母の遺骨を詰めて
夜の道を辿って帰る
穴開きバケツからは
道すがら
夜もすがら
快い薫りが滴って
ボンレスハムのように匂った





作05/08/27

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