遺言/なるせ
 



氷水で濡らしたタオルを額に当ててくれる瞬間が、ぼくにはとても愛おしかった。
汚れたランドセルが翌朝ピカピカになっていてすごく嬉しかった。
泣き虫なぼくをその腕で包み込んで、大丈夫と優しく囁いてくれた。


母さん。


大きすぎた初めての制服は、いつしか少し窮屈になりました。
友達とバカやって、部活動で遅くまで残って、あなたと話す時間も随分減りましたね。
ぼくはほんの少しそれが悲しかったけど、いつか訪れる時が来たのだと感じました。
懐かしい温もりはいつか離れていくのだと、子供心に感じていたのです。


母さん。


ぼくはあなたを初めて泣かせました。

[次のページ]
戻る   Point(10)