ペペ/鳴々門 零
勢いを失って
引き下がるように身を拱(こまね)いて
椅子を押しつぶすばかりの
巨体を投げ出して
俯(うつむ)くだけの部屋
その午後
汗ばんだシーツは皺くちゃになって
塵の粒子が
差し込む明るさに揉み消され
暖かさを超えた牛小屋のような
息詰まる臭いが
事の始まりを告げかけて
噎(む)せるような咳払いが起きる
そのまま何もしないでいると
名前もいらなくなってしまうが
母が可愛がっていたもの
ペペという犬の声に呼び覚まされて
明るい庭で遊んでいる
元に戻りそうもない
苦痛から抜け出そうとして
ゆっくりと玄関から
外へ出る
庭を歩いていって
郵便受けの中は空っぽ
庭の傍らに犬小屋がひとつ
そっと中も覗いてみる
戻る 編 削 Point(3)