静寂からの呼び声 〜’02年 8月15日・終戦記念日〜/服部 剛
 
真夏の昼下がり
春日通(かすがどお)りを歩いていると
ふと右手に
「東京都民戦没者・慰霊の地」
と記された入口が静かに口を開いており
吸い込まれるように足を踏み入れた

頭上の青空に昇る太陽
風に揺れる緑の葉
時間(とき)の止まった清楚な広場に
木霊(こだま)する蝉の鳴き声


広場の隅に建つ資料館に入り 
灰色の壁に囲まれた階段を上る

無人の資料室の入口に置かれたノートには
戦後五十年を過ぎた今も
訪れる遺族の震える文字が刻まれている

室内の壁に立て掛けられた日の丸の旗には
息子が戦地へと向かう前日
両親が書いた激励の言葉が刻まれ
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