月と渡辺さん/松本 涼
激しい睡魔に襲われながら三日月は
いっそ雨になれば良いのにと思っていた
軒先でギターを弾きながら渡辺さんは
一昨日見た夢を何とか思い出そうとしていた
渡辺さんの「246M」をMDで聴きながらキリカは
山手通りを家まで自転車で走っていた
まだ
雨は降らない
三日月はとうとう睡魔に負けて
深い眠りに落ちていった
渡辺さんは鼻歌のように
思い出しかけの一昨日の夢をノートに書きとめていた
キリカは家に着きシャワーを浴びながら
生まれ変わったら虫になりたいと考えていた
風が湿る
深い眠りの中で三日月は
知らない星で虫として生きて
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