野人の荒野/黒田康之
眼下には海の藍
振り返れば風が岩を離れ
大声で歌いだす荒野
アイスボックスから取り出したジンにレクストリームを数滴
緩やかな緑
車はあいつに借りたワゴンRで
今日は帰るつもりなどない
松の緑の匂いと
アブサンの香りと
誰もいない静寂
背骨ががたがたと軋むほどに酔って
私の頭から言葉がどんどんと消えてゆく
MDデッキにスピーカーをつけて
微かな音楽が波頭と風に対抗する
通りすがりに見た海岸の
女たちの豊かな胸には
もうじき夕刻のこの時間に
どんな言葉が溢れているのか
私は繰り返しジンを飲んで
蒸し暑い現実を生きている
そうして言葉は私の脳を離れ
密林を徘徊し
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