空の涙/服部 剛
仕事帰りの自転車に乗り
ふらふらと重いペダルをこぐ私を
野球帽をかぶった男の子が追い抜いてゆく
あまりにもまっすぐ走る恐れを知らない背中
暗がりを照らす街灯の立つ角を曲がって消えた
早朝のひとすじに伸びる路面の先に
昇る朝日へと向かって走っていた
遠い日の私
夜の歪んだ道のりをとぼとぼと
仕方なく歩く
今の私
( いつの間に
私は背後ににやける影を負い
大人の仮面を被(かぶ)ることを覚えたのだろう・・・ )
( 愛もなく女を抱いた夜があり・・・ )
( 心無いつくり笑いで
偽りの手を病者に差しのべた日々もあり・・・ )
今夜もふらふらと自転車に乗り 雲に覆われた夜空を仰げば
「 かえれ、かえれ、こどもにかえれ・・・
かえれ、かえれ、まっすぐみつめるすんだまなこに・・・ 」
何処かから聞こえる 濁(にご)った瞳の彷徨(さまよ)い人(びと)への呼び声
夜の雨空高くから 私の頬にひとしずく 冷たい涙が落ちてきた
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