世界で一番の華/奥津強
 
歌詠いの老父。手がない犬を連れ、近眼の男と会う。耳なしホウイチは、ナポレオンと共に、
老父を暗殺しかけたのだ。宗教が正しいと認めるのは、勿論、老父の歌声だ。うごぼけの。
言語などない。老父は、達磨のかつらをかぶり、ハルシオンを飲む。ナポレオンの曾孫が、
仏壇に向かい、地獄に落ちる。琵琶は、泥まみれになり、全国のホウイチは、耳がない。
禅僧は瞑想しつつ、邪天を呼び寄せる。マンガを読むために。老父は、詠う。
うごぼげの。うごぼけの。うごぼけの。誰もいない場所で、ナポレオンは、禅を習い、達磨に
なった。手足、目、耳、全て、欠如している。
全世界の歌詠いの憧れは、老父だ。聾唖の男が、溺死している。死んだのだな、日本軍は、
皆、死んだのだな。
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