プー子さんの退職/服部 剛
でつつきあっていた
頭を悩ませる上司の二人が帰った後
流しで自分のコーヒーカップを洗い
台所の引き出しを開くと
職員の名が書かれたそれぞれのコーヒーカップが
うつ伏せて置かれており
1ケ所 ぽかん と穴が空いていたので
洗いたての僕のコーヒーカップを
パズルのピースのようにうつ伏せた
皆のコーヒーカップは
それぞれが違う形・違う絵柄で
すき間を見えない金の糸でつながれて
一つの引き出しの中にぴったりと収められていた
それぞれのコップに
それぞれの顔を思い浮かべてみつめた後に
引き出しを閉じて
一段下を開くと、一つだけ置かれていた
プー子主任愛用のコーヒーカップに描かれた
プーさんの黒い目が2つ、僕を見て
「君たちは、これからだよ。」
と、黙っていつものほほえみを、浮かべていた
*初出 同人誌「母衣」3号
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