プー子さんの退職/服部 剛
 
でつつきあっていた

頭を悩ませる上司の二人が帰った後
流しで自分のコーヒーカップを洗い
台所の引き出しを開くと
職員の名が書かれたそれぞれのコーヒーカップが
うつ伏せて置かれており
1ケ所 ぽかん と穴が空いていたので
洗いたての僕のコーヒーカップを
パズルのピースのようにうつ伏せた

皆のコーヒーカップは
それぞれが違う形・違う絵柄で
すき間を見えない金の糸でつながれて
一つの引き出しの中にぴったりと収められていた

それぞれのコップに
それぞれの顔を思い浮かべてみつめた後に
引き出しを閉じて
一段下を開くと、一つだけ置かれていた
プー子主任愛用のコーヒーカップに描かれた
プーさんの黒い目が2つ、僕を見て

「君たちは、これからだよ。」

と、黙っていつものほほえみを、浮かべていた 


  *初出 同人誌「母衣」3号 


戻る   Point(17)