化粧 (2005.7.29)/和泉 輪
女が化粧している
裸の背中を私に晒して
射抜くような眼で
鏡に映し出した己を見る
内にある存在へ
女の手は問いながら作用する
ただの身だしなみでも
誰かに見せるためでもなく
太古より繰り返された
儀式のように
かつて化粧が持っていた
祭祀的な意味合いさえ含み
黒髪をゆるやかに束ね
肩甲骨の下に黒子が一つ
発声することさえ躊躇われ
動作の音だけが部屋に響く
鏡を通じて視線が交わり
闇に潤んだ眼で私を見る
最後に紅を薄く差し終え
深く息をついて立ち上がる
女の使っていた紅を
戯れに私も差してみる
だが女は何も言わず
そんな男を見て笑う
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