初物の桃/黒田康之
はあと呼気を荒くして
あの桃を今食べ終えようとしている
この指の香気はおそらく今日この一日ぼくの指にあって
ぼくを父とは違う褥に眠らせ
今日も現実も静かに眠らせるのだろう
夏の日差しは木陰を大きく作って
やがて南中する
そのときぼくはこのひと時を忘れて
生きているのだろうけれども
指先に潜め香気よ
違う現実を生きるぼくらを
違う褥に眠るぼくらを
汗ばんだまま
静かに眠らせるこの
鮮やかな夜が来るまで
どこまでも深く鮮やかに
ぼくとこの現実の寝息の中に
緩やかにあの太陽が沈んでいくまで
ああ
桃の香気よ
この指に潜め
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