月へ昇る虎/服部 剛
痩(や)せっぽちな
私の体の奥のほうで
一匹の虎が
牙を光らせ吠えている
今にもこの胸から溢れ出しそうな怒りの炎が
魂の器(うつわ)を青い光で染め上げている
かつて私に
夢を託した人々を裏切ってしまったように
私もまたそしらぬ顔の誰かに裏切られ
止むに止まれぬ闇の塊(かたまり)を手のひらに乗せたまま
口を開いて 月を見ている
夜空から淡い光の道を地上へと放つ満月よ
私の震える拳の内に守るように握られた
光る夢の欠片(かけら)が 手を開いた時に 消えていませんように
私も人を裏切ったことがありました
私を裏切った人にも
憐れみの光がそそがれますように
長い間
私の魂の牢獄に息を潜めていた虎よ
この体の奥のほうから駆け出して
月の光の道の上を吸い込まれるように
青い炎を吐きながら
夜空へ昇れ
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