小説 『暗い海』/かのこ
「ありがとうございます」とコンビニの店員が微笑みかける。僕にではない。ただ、この人、どこかで会ったことがあるような・・・。そう思った時、いつも妙な妄想をしてしまう。もしかして、世界にはほんの数十人の人間しか存在していなくて、その数十人は代わる代わる僕の前に現れては『僕の人生』という舞台を演じているのでは、と。もしかして、僕はみんなに陥れられ、笑われているだけなのではないか、と。そんなわけがないとわかっていながらも、時々そう思えてならないことがある。だって僕の人生はおかしいくらいによく出来た悲劇みたいだ。いつだって僕ばかりが必死で、なのに結局いつだって僕は笑われる。他人ばかりが優秀な人間に見える。
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