深淵に響く足音/服部 剛
 
光の蝶々(ちょうちょう)が舞い降りて

「 穴ぼこひとつない完き心には羽が生え
   天へと昇っていってしまうでしょう 」

と耳元に囁いて ふっ と姿を消しました



人は誰もが
唯一無二の完きできそこないであるゆえに

「あなたの声を出せばいいよ」 と

時にそっと呟(つびや)きたくもなり
古(いにしえ)の書物に手を置いて
耳を澄ませば

「私の前に あなたは 尊い」 と

光が闇を包みこむような ・・・・・
闇の内に光が芽生えるような ・・・・・
深淵(しんえん)からの声が語りかけてくる

この瞼の上につもった埃を
両手で払い落とし
開いた瞳に映るのは

修羅(しゅら)の世を 独り往(ゆ)く 光の人

彼の音の無い足どりを
夜更けに 瞳を閉じて 聞いていたい 


 
  
   * 初出 詩のメールマガジン「さがな。」87号







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