木の芽どきの手紙/待針夢子
 
肉屋さんで少しの肉を買った。
黄色に塗られた自転車が
すれすれで通り過ぎていく。
母親の腕から赤ん坊が
指をくわえて笑いかけてくる。
小学生が
細い足を絡ませあって遊んでいる。
恋をしたい猫の歯が
僕の指をへこませる。

こどものちいさな手も
かたい鉄に触れるやわらかい肌も
アンバランスな平和は
いつもとても艶めかしい


眠っても何も変わらない。
ただ
背骨から湧き上がる
ぬるいまろい狂気が
僕を足から溶かしていく。
発酵する五月の
わたあめによく似た匂いの狂想が
僕を足から溶かしていく。


僕はもう妖精を信じていない。
けれどきっと

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