『十字架』/しろいぬ
 
ひとつ ひとつ

赤茶けた楔(クサビ)が打ち込まれていく

うなだれた咎人(トガビト)は しかし呻きはせず

静かな眼差しで運命を見遣る

十字に伸びる血錆びた鉄塊

磔(ハリツケ)られた咎人が叫ぶのは 己の無力ではなく

楔で留められた手足の痛みを

心に刻むための誓い

縛られた運命に屈服する魂を

奮わせるための決意

ひとつ ひとつ

体に埋まる楔から目を逸らすな

抗いがたい痛みに涙しろ

諦観(テイカン)とともに目を閉じた者から

魂を溶かす真っ赤な夕焼けが訪れて

穏やかに 終りが始まる

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