記憶→記録/大覚アキラ
 
た。その写真自体はニセモノで、写真に関する記憶も与えられた偽の記憶でしかないんだよね。でも、彼女にとっては、その写真こそが、自分の“現在”を支えてくれる、ささやかな真実だったわけだ。
 その写真(=記録)は、彼女の心の中の思い出(=記憶)を裏付けてくれるものであり、世界と自分の橋渡しをする、“細く美しいワイヤー”((c)浅井健一@BJC)なんだよね。

 結果的には、ハリソン・フォード演ずる、レプリカントを抹殺する任務を命じられた刑事自身も、「われわれ人間も、結局は同じように、自分が何者で、どこから来てどこへ向かおうとしているのか、という不安を抱えているのだ」ということに気付く。

 誰かと自分だけが共有している、ささやかな秘密、小さな出来事、忘れがたい景色……そういう、記憶の集積こそが、自分を自分たらしめているものの本質なんじゃないだろうか?
 そして、それこそが、自分と世界を結び付けてくれている、“細く美しいワイヤー”なんじゃないかな?

 そう信じているからこそ、ぼくは日記をつけることで「記憶」を「記録」に変換する作業を今夜も続けるのだ。
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