ありえざるもの/大覚アキラ
あまりにも普通だった。
ふと見ると、クローゼットの横にどうでもいいような水彩画の入った額縁が飾られているのに気がついた。
そういえば、そういう、何かが“出る”部屋には、どこかにお札が貼られているっていうよね……そんなことを言って、笑いながらカメラマンと二人で額縁をめくって見た。
あった。
そう、あったのだ。
蛇がうねったような文字で、なにやら経文のようなものが書かれた、茶色く変色した長方形の紙が、そこにしっかりと貼られているのを、ぼくたちは確かにこの目で見た。
そんなこと信じられない、というあなたは、信じなければいい。
だが、もしいつか、ぼくと同じような体験をすることがあったら、その時は部屋の額縁の裏側を確かめてみてほしい。
その時こそあなたは、ぼくのこの話を信じる気になるだろう。
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