木陰のひととき/服部 剛
そがれるだろう 」
「 世の煩(わずら)いに振り回されず
只(ただ)お前の成すべきことを成し遂げよ 」
「 全てを委(ゆだ)ねて空白の明日へと羽ばたきなさい 」
本の表紙に描かれた絵を見ると
額縁(がくぶち)の中で
嵐の夜の海に揺れる小船に乗った一人の男は
遠い闇の水面に浮かぶ
ほの白く光る衣を身にまとう人の方へ吸い寄せられるように
船を漕ぎ続けている
〜
本を閉じようとすると
シャツの袖から手の甲をわたり
本の上を歩いている一匹の蟻(あり)は
ふうっ と息を吹きかけても
坊さんの父親の言葉のところにしぶとく足を引っかけて落ちない
3度目の息でようやく土の上に落ちた蟻はすぐに歩き出し
通りがかりのパンくずを担(かつ)いで
巣の穴へ入って行った
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