旅先の夜の灯火/服部 剛
 
うずくまり
顔をふさいでいるだろうか・・・?

( 今夜も遠い空の下では
  シャッターの下りた新宿のデパートの足元で
  黒字の布に覆われた小さい机の上に
  蝋燭(ろうそく)の明かりを灯(とも)し
  腰掛ける占い師の前に向き合い
  若い女は明日の行方(ゆくえ)を知ろうと
  ひろげた手のひらを差し出して
  蝋燭の火に照らしている )

旅の途上で姉の家に宿を借り
日常の煩(わずら)いを遠い場所に置いて来た僕は
ベッドの上で枕を背に腰掛けて
スタンドの明かりに照らされたノートに
旅日記を書いている

部屋のドアをノックした姉が顔を覗(のぞ)かせ
夫との間にめがねを外した小さい姪を挟んで

「おやすみなさーい」

と声をそろえた

ドアが閉まり しん とした旅先の夜
小さい手をふる
姪の澄んだ瞳が
旅人の空っぽの胸に
ほのかな消えない灯(ひ)をともす 



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