旅先の夜の灯火/服部 剛
うずくまり
顔をふさいでいるだろうか・・・?
( 今夜も遠い空の下では
シャッターの下りた新宿のデパートの足元で
黒字の布に覆われた小さい机の上に
蝋燭(ろうそく)の明かりを灯(とも)し
腰掛ける占い師の前に向き合い
若い女は明日の行方(ゆくえ)を知ろうと
ひろげた手のひらを差し出して
蝋燭の火に照らしている )
旅の途上で姉の家に宿を借り
日常の煩(わずら)いを遠い場所に置いて来た僕は
ベッドの上で枕を背に腰掛けて
スタンドの明かりに照らされたノートに
旅日記を書いている
部屋のドアをノックした姉が顔を覗(のぞ)かせ
夫との間にめがねを外した小さい姪を挟んで
「おやすみなさーい」
と声をそろえた
ドアが閉まり しん とした旅先の夜
小さい手をふる
姪の澄んだ瞳が
旅人の空っぽの胸に
ほのかな消えない灯(ひ)をともす
戻る 編 削 Point(6)